最近いくつかの英語論文を読ませていただいたうちの一つをシェアします。専門用語が多かったのですが可能な限り簡単にご説明出来たらと思います。
その前に、コロナウィルスとは何か?というのを私の医療知識(一応医療系の国家資格保持者です)から改めて解説させてください。
1,8-シネオールの説明だけを読む場合は>>こちらをクリック
コロナウィルスとは
まず、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2、COVID-19)はもう皆様もご存じかと思いますが、スパイクを持つ球形です。そのサイズは10,000分の1 mm。これが一般的なマスクの目よりもかなり小さいので、マスクの有効性の論議の理由となっています。ですが、新型コロナウィルス単体で浮遊しているばかりではなく、何らかの飛沫の中に紛れ込んでいることも。その飛沫自体はマスクの目よりも大きいのと、指などで触れられるとウィルス自体も壊れたりもするので、マスクのおかげでウィルスが侵入してきたり外に出たりする可能性は減ってはいる部分はあるのかと思います。ですが、外出先でウィルスが付着したマスクをすることでの感染や、マスクをすることで体内酸素量が減り免疫や精神活動に影響が出るなど、マスクによる弊害もありますので、マスクをこれからも続けていくのか、続けていくとしたらどういう場では外しても良いのか、しっかり理解し選択していく必要があると考えています。
コロナウィルスの外周には、脂質二重膜の「エンベローブ」があり、そこにたくさんのピンのようなものがスパイクのように突き刺さっています。そのピンのようなものを、「スパイクたんぱく」と言います。
余談:消毒
エンベローブがあるウィルス(風邪やコロナ、インフルエンザのウィルス)は、消毒用アルコールで脂質であるエンベローブを潰せますので、これで
エンベローブが無いウィルス(ノロウィルスなど)は、外殻がタンパク質なので、アルコール消毒をしてもアルコールとの反応性が低く、ウィルスが壊れないので弱体化させられません。次亜塩素酸ナトリウムなど別の薬剤を使う必要があります。
話を戻します。
そもそもウィルスというのは、細菌などと違ってそれそのものが生き物として呼吸、エネルギー産生、細胞分裂や新陳代謝といった生命活動を行っているわけではなく、宿主に感染して宿主の細胞の中でその力を借りて繁殖・増殖し、また出ていくという性質を持っています。
「自分だけでは増殖できないので感染先の力を借りる」
これはコロナウィルスだけでなく、ヘルペスや風邪ウィルス(アデノ、ライノなど)など、他のウィルスも同様です。
宿主の体内にウィルスが入った後
宿主に入り込んだウィルスは、細胞膜表面にある受容体である「酵素タンパク質」と結合するところからが増殖の始まりです。受容体である酵素たんぱく質は様々な種類があり、ウィルスによってその受容体の種類が違います。
コロナウィルスはACE2という受容体と反応します。そして、人体内にはたんぱく質を分解する様々な酵素がありますが、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)のイガイガしているスパイクタンパクを分解できる酵素も存在しています。
その酵素によりスパイクタンパクが分解されると、イガイガが無くなり細胞との融合がスムーズに進みます。これまでの旧型コロナウィルスのスパイスたんぱくの成分は、体内酵素では分解できませんでした。これが新型が旧型より感染力が高いと言われる理由になっています。
ちなみに、この新型コロナウィルスのスパイスたんぱくを分解するのを阻害する薬などもウィルスが細胞内の侵入を防ぎやすくなりますので、増殖を防ぐこと出来るため治療薬となるのではという話があります。
宿主の細胞にウィルスが入った後
細胞にウィルスが侵入した後は、動物細胞が持つ細胞分裂の仕組みを悪用?して、自分を増殖させます。その時に、RNAウィルスである新型コロナウィルスは、RNA依存性RNAポリメラーゼというものを合成します。これはRNAのそっくり反対向きのRNAを合成する酵素であり、本来のRNAと反対向きのRNAが対をなすことで2本鎖RNAができあがります。
新型コロナウィルスにアビガン(インフルエンザの薬)が有効なのでは?というニュースが出ていましたが、それはインフルエンザもRNAウィルスで、アビガンはそのRNA依存性RNAポリメラーゼの働きを阻害し2本鎖のRNAを合成するのを防ぐ働きがあるためのようです。
その後のウィルス増殖の流れを、少しわかりやすい言葉にしますと
人の細胞の情報については、DNAの情報を元にして1本のmRNA(メッセンジャーRNA)が細胞の核内で出来上がり、核の外に出ます。mRNAが核の中に入ることはありません。リボソームという細胞内組織に1個分の設計図情報(遺伝子情報)を渡します。リボソームはその情報を元にアミノ酸を合成するんですよね。
でも、ウィルスはなんとか大量に自分のコピーをリボソームという工場に作ってもらわないといけないので、ウィルスには人間と違って1つ分ではなく複数の情報が存在しています。リボソームは持ってこられた設計図通りに作ることを仕事にしているので、リボソームは何の疑いもなく?渡されたウィルスの設計図情報を元にいつも通りアミノ酸鎖を作ります。でも普段と違い複数の情報がすべて繋がった、通常より長~い1本のアミノ酸鎖になっています。
その長いアミノ酸鎖を、「メインプロテアーゼ」というウィルス独特の作用でウィルス1個分ずつに切り出します。これで増殖が完了です。
このメインプロテアーゼはコロナウィルスだけでなく、C型肝炎ウィルスやHIVウィルスなど、他のいくつかのウィルスにもある作用です。
そのため、新型コロナウィルスの薬としてこのメインプロテアーゼを阻害するものを開発する動きがあるようです。
余談:ワクチンについて
新型コロナワクチンは、mRNA(設計図)をもらってタンパク質をその通りに合成する工場であるリボソームに、新型コロナウィルスのmRNAの一部を渡して、「新型コロナウィルスのスパイクたんぱく(新型コロナウィルスより弱い)」を合成させます。細胞外に排出されたスパイクたんぱくを見た体の免疫機関がそれに対する抗体を産生し、それと戦い、それを通して免疫を獲得するというものです。その過程で、ワクチンを注射されることで体内で増殖した新型コロナウィルスもどきを見た私たちの体は、免疫力を上げようと、当然の反応として風邪を引いた時のように高熱を出すことがあります。
ようやく登場、1,8-シネオール!
ラヴィンサラ、ユーカリ・ラディアタ、ローズマリー、カユプテ、ニアウリ、ティーツリーなどに含まれる1,8-シネオール(ユーカリプトール)は、その抗ウイルス特性と気管支における分泌物に対しての去痰薬として研究され続けていることが知られています。
そしてSharma氏とKaur氏が2020年に、1,8-シネオールが、ウィルスの増殖のために必要なメインプロテアーゼに対してどのように働くかをインシリコ研究(コンピュータ上でのシミュレーションのようなもの)という形ではありますが研究されたそうです。
その結果、Sharma氏とKaur氏は1,8-シネオールがウィルスのメインプロテアーゼと結合し、その働きを阻害すること、そしてそれによってRNAの複製を阻害する可能性があることを示唆する論文を発表されています。
ですがまだこの論文は査読が付いていないようですし、インシリコ研究としての情報で人体内やウィルスそのものに対しての結果ではありませんので、この情報をそのまま信じるのはまだ早い段階ではあります。その点ご留意ください。続報および査読付きの論文が掲載され次第またブログでご紹介させていただきたいと思います。でも、もし1,8-シネオールにそのような効果があるなら、素晴らしいですよね。
参考文献・転載元
Sharma AD, Kaur I (2020a) Eucalyptol (1,8 cineole) from Eucalyptus Essential Oil a Potential Inhibitor of COVID 19 Corona Virus Infection by Molecular Docking Studies . https://doi.org/10.20944/preprints202003.0455.v1
Sharma AD, Kaur I (2020b) Molecular docking studies on Jensenone from eucalyptus essential oil as a potential inhibitor of COVID 19 corona virus infection. Arxiv